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第2話 「教える」から「問いかける」へ | 放任で育った私が、「育てる人」になるまで

答えを教えるのではなく、考えるきっかけを渡す。

KPTAと問いかけによって、新人との1on1が「教える場」から「考える場」へ変わっていく転機を描きます。

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第2話 「教える」から「問いかける」へ ― 新人との1on1で起きた最初の変化

前回、私はメンターとして最初の壁にぶつかった。

答えを丁寧に教えているつもりなのに、新人はまた同じところで立ち止まる。

その場では進める。
でも、少し条件が変わるとまた止まる。

私は、かつて自分が苦しかった育成のやり方を、知らず知らずのうちに繰り返していた。

そんなタイミングで、社内で開催されたメンター向けの研修に参加することになった。

テーマは、「新人育成のためのコーチング入門」。

資料に書かれていた言葉が目に留まった。

「教えすぎず、放任しすぎない 」

その言葉を見た瞬間、思わず立ち止まった。

まさに今、自分が悩んでいることだった。

研修では、問いを通じて自己内省を促す KPTA と、相手の成長を促す対話技法 GROW というフレームワークを学んだ。

特に印象に残ったのは、講師のこんな言葉だった。

メンターの役割は、答えを持つことではありません。
相手が答えにたどり着くための思考を支援することです。

その言葉は、胸に深く残った。

翌週の1on1。

新人が少し困った表情で話し始めた。

「レビューで修正依頼をもらったんですが、何を優先して直せばいいのか分からなくて…」

これまでの私なら、すぐに答えていた。

「まずこの修正を優先して」
「次にこの観点で見直して」

けれど、その日は少しだけやり方を変えてみた。

私は、すぐに答えを言わずに尋ねた。

「どこが一番迷っている?」

新人は少し考えてから答えた。

「指摘された項目は分かるんですが、影響範囲が読めなくて…」

さらに続けて聞いた。

「今、自分で分かっていることは何?」
「逆に、まだ曖昧なことは?」

新人は画面を見ながら、一つずつ言葉にしていった。

「修正箇所そのものは分かっています」
「でも、この変更が他の処理に影響するかが分かりません」

私はさらに問いを重ねた。

「影響しそうな場所って、どこが思い浮かぶ?」

その瞬間、新人の表情が少し変わった。

「あ…この機能、同じ共通処理を使っているかもしれません」

それは、私が教えた答えではなかった。

新人自身の中から出てきた気づきだった。

そのやり取りを通じて、私自身にも大きな発見があった。

これまで私は、早く問題を解決してあげることが優しさだと思っていた。

でも本当に必要だったのは、解決策そのものではなく、
解決にたどり着くための思考のプロセスを一緒に整理することだった

研修で学んだ KPTA は、まさにそのための土台だった。

新人は1on1の前に、自分の状況を整理して持ってくるようになった。

  • うまくいって続けること(Keep)
  • 困っていること(Problem)
  • 試してみたいこと(Try)
  • 次に取る行動(Action)

こうして事前に言語化しておくことで、対話の質が大きく変わった。

以前は、

「何となくうまくいかない」

で終わっていた相談が、

「この部分までは進めたが、ここで仮説が立てられない」

という具体的な対話に変わっていった。

ある日の1on1で、新人がこんな言葉を口にした。

「前はすぐ答えを聞こうとしていたんですが、最近はまず自分で整理してみようと思えるようになりました」

その言葉を聞いたとき、私は少し驚いた。

変わったのは新人だけではない。私自身も変わり始めていた。

「教えること」がメンターの役割だと思っていた私が、少しずつ「考える場をつくること」へ視点を移し始めていた。

問いとフィードバックは、自律的な成長を促すための支援になる。

それを、現場の1on1で初めて実感した瞬間だった。

とはいえ、すべてが順調だったわけではない。

問いかければいいと分かっても、どこまで介入すべきか迷う場面は多かった。

新人が沈黙してしまったとき。

答えを教えた方が早いと思ってしまうとき。

私はまだ、自信を持ってメンターをできているわけではなかった。

むしろ、新たな悩みが生まれていた。

この問い方で、本当に相手の成長につながっているのだろうか

その答えを探すために、次に私が向かったのは、メンター自身を支えるコーチとの1on1だった。

次回、第3話では、
メンター自身が「育てられる側」になる時間 を描きます

コーチとの対話を通して、自分の育成観そのものがどう変わっていったのか。

そこに、メンターとしての本当の転機がありました。