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第4話 (最終話) 「育てる自信は、一人では生まれない」 | 放任で育った私が、「育てる人」になるまで

メンター同士の対話が、個人の悩みを組織の知恵へ変えていく。

育成を“個人技”で終わらせない仕組みの価値を描く最終話です。

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第4話 「育てる自信は、一人では生まれない」 ― ふりかえりの場が、メンターを変えた

コーチとの1on1を経て、私は少しずつ肩の力を抜いて新人と向き合えるようになっていた。

完璧な問いをしなくてもいい。
すぐに正解へ導こうとしなくてもいい。
大切なのは、新人が自分の言葉で状況を整理し、次の一歩を考えられるよう支援すること。

そう考えられるようになったことで、1on1の空気は大きく変わった。

新人が話す時間が増えた。
私が話すのは、以前よりずっと少なくなった。
それでも、迷いが完全になくなったわけではない。

ある日、社内でメンター同士のふりかえり会が開かれた。
研修のフォローアップとして、現場での実践を共有する場だ。

私は少し緊張しながら参加した。
自分だけが、こんなに悩んでいるのではないか。
そんな思いがどこかにあった。

ところが、会が始まってすぐ、その思いは覆された。

最初に話し始めたのは、別部署の先輩だった。

「つい答えを教えすぎてしまって、本人に考えさせる時間が取れていない気がするんです」

別のメンターが続けた。

「逆に、任せた方がいいと思って見守っていたら、完全に手が止まってしまって…」

さらに別の人が言った。

「厳しく伝えるべきか、安心して話してもらうべきか、そのバランスが難しいですよね」

私は思わずうなずいていた。

自分がここ数か月ずっと抱えていた悩みが、そのままそこにあった。

その瞬間、はっきりと気づいた。

悩んでいるのは自分だけではなかった。

メンターという役割に、最初から正解を持っている人はいない。

みんな、現場で試し、振り返り、少しずつ関わり方を磨いている。

その事実に、思っていた以上に救われた。

ふりかえり会では、単に悩みを共有するだけではなく、実際の1on1の工夫も持ち寄られた。

たとえば、あるメンターはこう話した。

「新人が話しやすいように、最初に“うまくいったこと”から聞くようにしています」

Keepから入ることで、対話の入り口が柔らかくなる。

別の人は、KPTAを使った事前整理が効果的だったと話していた。

「Problemだけで終わらず、Tryまで一緒に言語化すると、次の行動につながりやすいです」
「Actionは事前に決めずに、対話の中で決めると納得度が高まります」

まさに研修で学んだ型が、現場で再現されていた。

ここで私は、もう一つ大きなことに気づいた。

育成は、個人のセンスや経験だけに依存させてはいけない。

共通言語とふりかえりの場があることで、経験が知恵として蓄積される。

それが組織の育成力になる。

数週間後。

新人との1on1で、こんな場面があった。

新人が自分からKPTAを見せながら話し始めた。

「今回うまくいったのは、レビュー前に確認観点を整理したことです」
「ただ、Problemとしては、優先順位づけにまだ迷いがあります」
「次はTryとして、先に影響範囲を書き出してみようと思います」

私は少し驚きながら、その言葉を聞いていた。

以前のように「どうしたらいいですか」と答えを求めるのではなく、

自分で整理し、次の行動まで言葉にしている。

そこには、確かな変化があった。

私は静かに問いかけた。

「それをやることで、どんな変化がありそう?」

新人は少し考えて、笑いながら答えた。

「前より、自分で進められる気がしています」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にじんわりとした感覚が広がった。

ああ、これだったのかと思った。

育てる自信とは、毎回完璧な1on1ができることではない。

いつでも正しい答えを持っていることでもない。
相手が自分の力で前に進めるようになる、その変化を一緒に見届けられること。
その積み重ねが、自信になっていく。

振り返れば、私は新人時代、ほとんど放任の中で仕事を覚えてきた。
たまに相談しても、返ってくるのは答えだけ。うまくできなければ責められる。
あの頃の私は、「育てられる」という経験を持てなかった。

でも今、メンターとして新人と向き合う中で、ようやく分かった。
育成とは、答えを教えることではない。放任することでもない。

問いと対話を通じて、自分で考える力を育てること。

そして、その育成を支えるのは、一人のメンターではなく、コーチや仲間とのふりかえりを含めた仕組みそのものだ。

私はようやく、胸を張って言えるようになった。

私は今、育てる人になれている。

そして同時に、こうも思う。

育てる人は、一人で育つものではない。

支え合い、問い合い、ふりかえる場があってこそ、人を育てる力は育っていく。

4回にわたってお届けしたこの物語は、特別な誰かの話ではありません。
新人育成に向き合う多くの現場で、実際に起こった変化です。

「教えすぎず、放任しすぎない」

その間にある対話の設計こそが、これからの育成の鍵になる。
もし、同じ悩みを持つ現場があるなら、そこから変化は始められます。